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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)2594号 判決

事実

原告(浜岡透)は被告(偕成証券株式会社)に対し、その懇請により昭和二十八年八月十四日金百万円を返還期三箇月、利息として百円につき一日五銭の約束で預入れたが、今日に至るも返還に応じないので右百万円並びにこれに対する年六分の割合による金員を支払うよう請求する。なお、被告のいう訴外宗藤尚之については、原告は同人が被告会社以前の勤務先で不正行為のあつたことを知つているので、同人に代理権を与えたようなことは全くないと述べた。

これに対し被告は、右預金契約は期日前である昭和二十八年十月二十六日、原告からの申込により原告の代理人である訴外宗藤尚之との間で合意解約をなし、同人に全額返戻済である。原告において、たとえ右宗藤に前記行為につき原告を代理する権限がないとしても、同人は原告の甥でありその実父の身元保証の下に被告会社に入社したものであるから、被告において右宗藤にその権限ありと信ずべき正当の理由があり、従つて原告は民法第百十条によりその責を免れることはできないと主張した。

理由

被告会社と原告とは本件の預金の以前にも原告の義理の甥である訴外宗藤尚之を介して金二百万円の預金契約をなしたが、その預金の交付利息金の授受や受領証の交付等は右宗藤がこれに当つたこと、本件預金取引も前同様右宗藤が実際の衝にあつたこと、右宗藤が被告会社の経理担当者に原告に至急金の必要が生じたことを理由として本件預金の解約方を申入れた際も、右経理係は宗藤が前二百万円の預金についても直接これに関与して円満に取引を済ませたこと、宗藤が原告と義理の叔父甥の関係にあること、持参した本件百万円の受領証の原告名義の筆跡やその名下の印影が、前記二百万円の預金の場合の利息の領収証や本件百万円の預金の利息の各受領証のそれと同一であることを確め得たので、右宗藤に原告のため期限前解約をなす代理権あるものと信じ、右申入に応じたものであること、そしてこの種預金は本来顧客のサービスのためのもので、期限前でも又預証と引換でなくとも顧客よりの要求があれば預金の返還に応じていたこと、以上の事実を夫々認めることができる。而してこれらの事実よりすると、訴外宗藤は少くとも原告に代つて預金利息金やその受領証を交付する権限はあつたものというべく、本件預金の期限前解約については権限を持たなかつたが、被告側において宗藤にこの点についても代理権あるものと信じ、且つかく信ずるには客観的に首肯するに足る事情があつたものと認めるのが相当であるから、被告人の民法第百十条に基く抗弁は理由があり、原告の本訴請求は失当であるとしてこれを棄却した。

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